鍼刺激で局所に分泌される物質

鍼を刺入することにより、その刺した部位の周辺では様々な物質が分泌されることが分かっています。

他述の通り、当院の肩こりや首こり、腰痛の治療におけるメインターゲットであるポリモーダル受容器も刺激によりサブスタンスPやCGRPと呼ばれる神経ペプチドを放出しますがここではポリモーダル受容器だけではなくその他の組織、細胞などからどのような物質が放出されるのかについてご紹介させていただきます。

 

鍼が体内に刺入されると様々な mediators (=炎症伝達物質、介在物質)が放出されますが、それらは大きく分けて刺激系抑制系に分類されます。

 

刺激系は様々なサイトカイン、プロスタグランジン、ブラジキニン、その他の炎症誘発性の因子を含みそれらは鍼の刺された局所における求心性の神経線維の興奮を高めます。

抑制系はアセチルコリン、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、GABA、βエンドルフィン、サブスタンスP、ソマトスタチン、一酸化窒素、ATP、アデノシン、環状グアノシン一リン酸などが放出され、これらは鍼の刺された局所における受容体や求心性の神経線維の興奮を抑制します。

 

興奮性の物質と抑制性の物質が放出されるというのはアクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなことなので良く分かりにくいことかもしれませんが、人体では良くあること(例:心臓や脳など)です。相矛盾するような信号の集合の差し引きで最終的にどの方向に進むのかが決まります。人体は複雑系と言われる所以です。

 

セロトニンやヒスタミンもまた放出されますが、その影響は先の興奮性・抑制性物質よりも複雑でどの受容体に結合するかにより興奮性にも抑制性にもなりうるという性質があります。

 

局所におけるこれらの物質の一部分は非神経細胞からも放出されます。

 

様々な物質が関与する中、大まかな方向性としては鍼刺激による影響としては、基本的に抑制系の物質放出の方が優勢であるので、鍼による鎮痛効果が得られるということになります。

抑制系の物質の活動が働くことにより肩こりなどの痛み信号の伝達がブロックされることになるので、このことからしてもより効果を得るには鍼がコリにできるだけ近い場所に到達することが望ましいと考えられます。

また、鍼によって放出されたサブスタンスPやCGRPが自己受容体に作用する(自分自身が自分の放出した物質でさらに反応性を高める)ことで生じるネガティブフィードバックの活性化による鎮痛作用もあるとされます。