ポリモーダル受容器とは

ポリモーダル受容器とは?

 

当ホームページ上でたびたび、当院は、鍼でもマッサージでも「過敏になったポリモーダル受容器」(*)を刺激のメイン・ターゲットにしている旨の記述をしております。そこでポリモーダル受容器について簡単にご紹介いたします。

 

(*)皮膚(だけでなく体中)にも、もちろんポリモーダル受容器はありますが、当院が治療の対象としているのは「筋肉(コリの芯)、あるいはその筋肉を包む筋膜にあるのポリモーダル受容器」です。

要旨:

痛みは…


一次痛
二次痛がある

急性痛慢性痛がある

急性痛は危険を知らせるという意味があるが、慢性痛はもはや意味がない

痛みは変化しやすい(可塑性)→慢性痛に転化

 

ポリモーダル受容器は…


体中にある侵害受容器

痛み刺激を受けとる

機械刺激熱刺激化学刺激という複数の刺激に対して反応する

異常(炎症など)がある場所では反応性が高まる

刺激を受け興奮するとサブスタンスPなどの神経ペプチドを分泌

自律神経系と密接に関連している

内分泌系と密接に関連している

免疫機能と密接に関連している

組織の修復と密接に関連している

鍼鎮痛に関与している

 

 

痛みについて

 

ポリモーダル受容器を理解するにはまず「痛み」について簡単に説明が必要です。

痛みには「一次痛・二次痛」という分類と「急性痛と慢性痛」という分類があります。

 

一次痛・二次痛という分類

まず「一次痛・二次痛」という分類ですが、ご存じの通り痛みには瞬間的に感じる鋭い「チクっ」とする痛みと、遅れて「ズーン」とくる痛みがありますが、前者が一次痛で、後者が二次痛です。一次痛は高閾値侵害受容器(皮膚ではAδ線維)の反応により、二次痛はポリモーダル受容器(皮膚ではC線維・筋肉内ではAδ・C線維*)の反応により伝わります。

*筋肉内でのAδ繊維はエルゴ受容器と接続すると説明する文献もあります。詳しくは鍼とエルゴ受容器をご参照ください。

 

急性痛・慢性痛という分類


それから「急性痛・慢性痛」という分類ですが、現在ではこの分類の仕方は正しくない(痛み(いわゆる慢性痛)についてを参照)ことが判明していますがここでは伝わりやすさを優先します。

一般的に、急性痛は身体のどこかが傷つくことにより痛みセンサーである高閾値侵害受容器・ポリモーダル受容器が反応し信号が脳に伝わって生じる一過性の痛み、慢性痛は3~6ヶ月以上続く痛み、とされています。

 

痛みの意義 ー 痛みは何のためにあるのか?


そもそも痛み(急性痛)というのは身体のどこかに異常が起こっていることを知らせる大切なシグナルです。(→ 角にぶつけて痛い。指を切って痛い。)ただし、この危険や異常を知らせるシグナルとして意味を持つのは急性痛であって、医学的には慢性痛は警告信号としての役割を終えており意味がないとされています(この辺りの正確な議論は痛み(いわゆる慢性痛)についてを参照)。

 

痛みの大きな特徴 ー 可塑性


そして痛みの大きな特徴として可塑性の高さが挙げられます。可塑性とは、もともと物理学で使用されている概念で、外力によって生じた変形が元に戻らない性質を言います。つまり、一度変化が生じるとその状態を保ち、元に戻りにくい、という性質です。

例えば、ゴムボールを指で押すとへこみますが、指を話すと元の球体に戻ります。粘土を指で押すと、ゴムボールと違って押したへこみがいつまでも残ります。この場合、ゴムボールは可塑性が低い、粘土は可塑性が高い、ということになります。

痛みは可塑性が高いことが知られています。痛みは可塑性が高いといった場合、一度「痛い」という信号を発するようになるとその状態が続きやすい、という特徴があるということです(慢性痛)。(→肩こりからくる痛みがいつまでも治らない)

この慢性痛は異常を知らせる意味をすでに失っており、単にその可塑性ゆえ無駄に不快感を引き起こし続けているだけの存在です。ここが我々の治療の対象となるわけです。

 

 

ポリモーダル受容器について

分布 – 体のどこにあるのか?

ポリモーダル受容器は皮膚、筋肉、筋膜、内臓…など人間の身体中にある侵害受容器です。

*筋肉内の細径求心性線維(C線維)の大部分はポリモーダル受容器と考えられています。

受容野は直径数㎜の点状。1~2㎜² とされ(文献によっては5㎜²程度というものもあります)、皮膚では1 個であることが多いが、内臓ではほとんどの場合数個の受容野が単一の神経により支配されています。

無髄神経線維(C)と細径有髄神経線維(Aδ)に支配される受容器の反応性に違いはないとされています。

 

働き – 何をしているのか?

受容器(感覚器・刺激を感知)でもあり、効果器(周囲に働きかける)でもある、という非常に特殊な性質を持っています。

 

 

受容器とは内部環境や外部からの刺激情報を受け取る(その後、中枢に送られる)器官のことをいい、

効果器とは働きを調整する信号を送り出す器官のことを言います。

これらは全く異なる性質の器官なので、普通は、受容器は受容器として存在し、効果器は効果器として存在しています。

また、通常、1つの受容器は1つの種類の刺激を受け取ることに特化していますし、1つの効果器は1つの種類の信号を出すことに特化しています。

ポリモーダル受容器はこれらの常識的な在り方から外れた完全に型破りの存在です。生物進化のごく初期段階から身体に組み込まれてきたためです。

 

 

受容器としての働き


ポリモーダル受容器は侵害刺激(*)を受け取り電気信号に変換します。この電気信号が”情報”として神経線維(C線維、Aδ繊維)を通り上行して、最終的に脳に伝わることで「痛み(2次痛)」感覚が生じます。

(*)実際には非侵害刺激レベルから反応を示す(=つまり痛みを伴わないような強さの刺激でも興奮する)ことが後の研究で明らかになっていますが一般的には痛み刺激を受けとる器官として議論されます。

 

ポリモーダル受容器および他の受容器・感覚器の反応の仕方を示すグラフ

ポリモーダル受容器の反応性

 侵害受容器と非侵害受容器活動の模式図

(出典:熊澤孝朗,エンケファリンとエンドルフィンー痛みの制御をめぐって : 講談社 1981より )

①は侵害受容器のうち高閾値機械的侵害受容器
②は侵害受容器のうちポリモーダル受容器
③は非侵害受容器(ex.触覚を伝える受容器など)

図から分かるように、侵害受容器は刺激の強さに比例してどこまでも反応が強くなります。

 

他の受容器にない大きな特徴 (1/2)


この受容器としての場面において、他の受容器にない大きな特徴として複数の刺激を受け取ります。ポリモーダル受容器の名称も、
多くの(poly)様式の(mode )刺激に応ずることに由来しています。

つまり、強く圧迫されたり鍼で刺されたりといった機械的刺激のみならず、一定の限度を超えた熱さの温度刺激、炎症などで漏れ出る炎症物質・痛み物質などの化学刺激という刺激を受け取ることができる、という他にはない特徴があります。

そもそも、ある程度進化を遂げた生物において、身体のほとんどの器官は高度に「分化」しています。目(網膜)はある範囲内の波長の光刺激のみを捉えますし、耳は空気の振動、それから膵臓のランゲルハンス島(膵島)のβ細胞はインスリンを分泌。。。などなど特定の役割を果たすことだけに特化しています。
触覚においてはマイスナー小体、パチニ小体、メルケル盤、毛包受容器、ルフィニ終末や自由神経終末など・・様々な器官があり、
パチニ小体は触った場合に最初に反応、マイスナー小体は触った皮膚が変形して行く速度を把握、マルケル盤は軽く押された感覚を把握、ルフィニ終末は皮膚が引っ張られる感覚を把握、毛包受容器は毛の傾きの変化を把握、という風に役割分担がはっきりしています。例えばルフィニ終末を針でつついても反応しません。

つまり、生物の各細胞、各組織は役割分担がはっきりしていてそれ以外の仕事は一切引き受けない、という大原則的な性質があります。

このような大原則に反してポリモーダル受容器は複数の刺激を受け取ります。

 

他の受容器にない大きな特徴 (2/2)


そしてもう一つ、受容器の性質の中で語られる大きな特徴として、感度・反応性が大きく変化(感作・脱感作といいます)するということが挙げられます。

 

先ほどの「可塑性」ですが、 生物の身体において、発生学的に古い、つまり「未分化」な細胞ほどこのような性質を持ちます。ポリモーダル受容器はまさに「未分化」の王様のような存在で、あらゆる感覚の中で一番古い組織とも言われます。

ポリモーダル受容器は極めて未分化でそれゆえに反応性は変化しやすく(可塑性が高い)、周囲の環境によって敏感(感作)にも鈍感(脱感作=感作状態が解けて元の正常レベルの反応性に戻る)にもなります。組織が損傷したり異常が生じて炎症が起こると、炎症物質が産生されますが、このような炎症物質・発痛物質などの化学物質により反応性が高まり、シグナルを伝えながら、効果器としての性質も持っているので自身の分泌する神経ペプチドによりさらに感度を高め…炎症時の痛みを増強させながら伝えていく…ということをします。

*前述の受容野の広さについて文献によりバラつきがあるのはこのような変化のしやすさが関係している可能性もあります。実際に、遅発性筋痛(いわゆる「筋肉痛」)の時に、受容野が大きくなっていることが報告されています。

 

この感作については、単に対象刺激に対して興奮がしやすくなる、という事だけとどまりません。今まで興奮するような種類の刺激ではなかったものに対してまで興奮するようになることが確認されています。

例えば、哺乳類の皮膚ポリモーダル受容器について調べた結果、正常な状態ではまったく興奮しないはずの交感神経刺激・ノルアドレナリンに対して、慢性炎症・神経因性疼痛の状態下ではポリモーダル受容器の異常活動・興奮を引き起こすことが明らかにされています。このときの状態を調べると交感神経の伝達物質に対する受容体が新たに出現していることが確認されました。

また、正常時には発現していないブラジキニンのB1受容体が、炎症等により新たに発現することも報告されています。

 

異常のある所に存在するポリモーダル受容器は、正常な所のポリモーダル受容器と反応性が異なり、本来なら何でもない刺激に対しても発火するようになるのです。反応性が高まっている訳ですから通常なら痛みと感じない圧迫刺激で痛覚を覚えます(圧痛)し、細い鍼が当たっても痛み(響き)が出るわけです。

同じ場所にマッサージ刺激や鍼を打っても、筋肉が「凝っていなければ痛くない」、「凝っていれば痛い」ということが生じるのは反応性が容易に変化するというポリモーダル受容器の性質によります。

また、脱感作、つまりコリが解消されて状態が良くなればその場所を、悪かった時と同じ強さで押したり、あるいは鍼を刺しても以前のような痛みは出ません。

{この場合、結構太い鍼で刺してもほとんど痛くないか(人によっては全く感じない)、少し感じるくらいです。治療がある程度進んでくると以前とても痛かったところに刺鍼しても押圧しても感じ方がまるで変ってくるので患者様はとても驚かれるようです。でも魔法でも何でもなく、悪いから痛いのも、良くなったから痛くないのも正しい手順に従った結果生じる自然な生理現象です。鍼灸師・マッサージ師の役目は必要な場所に正確に当てる事に尽きると思います。後は患者様の身体が勝手に修復作業を行います。}

 

 

効果器としての働き
ポリモーダル受容器の支配神経にはサブスタンスP、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの種々の神経ペプチドという物質が含まれており、受容器が興奮すると末梢からこれらの物質を分泌します。(これらのペプチドは後根神経節にある細胞体で産生され、脊髄および末梢の両方向へ軸索輸送されます。)

 

このサブスタンスPが中枢側に向かい、脊髄に伝わりに信号が届くことで「痛み」感覚が生じます(=受容器としての働き)。逆に、末梢側に向かい末端で放出されれば以下にご紹介するように様々な効果を生じることになります(=効果器としての働き)。情報が折り返して末端側に向かうことを軸索反射・後根反射といいます(下図参照)。およそサブスタンスP の95%が末梢側に向かうとされています。

*鍼灸刺激によって刺激部位の皮膚周辺に紅斑(flare)が生じますが、このフレアーは軸索反射(axon reflex)と呼ばれる神経線維の逆行性興奮によるものとされています。(皮膚でのフレアーは目で見ることができますが、)筋肉内では肉眼で確認できないため議論がありましたが、現在では同様のことが筋肉内(鍼先)でも生じていることが研究により明らかにされています。

つまり、ポリモーダル受容器は痛覚受容器としての信号を上(脳)に伝える一方で、末梢で物質を吐き出すという効果器としての働きまで持っているという何とも稀有な存在です。

 

図:ポリモーダル受容器と軸索反射・後根反射(逆行性伝導)

ポリモーダル受容器と軸索反射・後根反射

 

他の効果器には見られない大きな特徴


効果器としても働きますが、ここでも他の器官には見られない大きな特徴は、ポリモーダル受容器が分泌する物質により下図の通り複数の様々な働きが生じる、ということです。

 

ポリモーダル受容器の効果器としての働きの図

(出典:Kumazawa T : Function of the nociceptive neurons. Japanese Journal of Physiology 40: 1-14,1990 より)

 

上図3,4の動脈の血管拡張、静脈の血管透過性亢進は肩こり、首こり、腰痛などの「コリ」の解消と「痛み」の除去に大きく関係します。具体的には、血管拡張作用はCGRPにより、血管透過性亢進はサブスタンスP(SP)により生じます。(詳しくは鍼刺激と筋血流増加についての科学的根拠・研究例をご参照ください。)

ポリモーダル受容器の活動は自律神経系(交感神経・副交感神経)と密接に関連していることが知られています。( 上図の2.autonomic ganglion が自律神経系への入力を、10.visceral smooth muscles 胃腸などの内臓を構成する平滑筋の活動調整 )

例)ポリモーダル受容器の興奮増大と反射性呼吸活動の促進に密接な相関があることや、感作したポリモーダル受容器の刺激が血圧、心拍数などの自律神経や内分泌系に大きな影響を与えることなどが研究で明らかにされています。

 

ポリモーダル受容器の活動は免疫系と密接に関連していることが知られています。( 上図の5~8: 肥満細胞・ヒスタミン放出、マクロファージの食作用、好中球の走化性、Tリンパ球の増殖 )

ポリモーダル受容器の興奮により線維芽細胞の増殖が生じます(上図の9)。線維芽細胞とは、組織の修復に重要な細胞でアミノ酸からコラーゲン繊維や基質成分を産生する働きを有します。これによって損傷した組織の修復が行われます。

 

また、この図にはありませんが、ポリモーダル受容器からの信号が脳に伝わることで惹起される鍼鎮痛に関与するといわれます。
( 種々ある神経線維のうちポリモーダル受容器はC線維、Aδ繊維ですが、鍼鎮痛に関与するといわれるのもC線維です。詳しくは鍼鎮痛におけるポリモーダル受容器の働きをご参照ください。)

 

* 深部組織のポリモーダル受容器の刺激が自律神経系、免疫系、内分泌系に強い修飾作用をもたらします。このポリモーダル受容器の特性から、体性感覚系というよりもむしろ自律神経系、免疫系、内分泌系への入力としての働きを重要視している研究者もいます。鍼(やマッサージもある程度)がなぜ冷え性や内臓の不調などの自律神経系(交感神経・副交感神経)のトラブル、免疫系の不調に対して効果があるのかここから説明できます。

 

ポリモーダル受容器とツボ(経穴)

 

以上述べてきましたポリモーダル受容器の性質、つまり、悪い部分では反応性が高まり(=炎症物質という化学刺激に反応している)、鍼や指圧などの機械刺激や、お灸などの熱刺激に反応し、鍼鎮痛に関与する。加えて、自律神経系(いわゆる五臓六腑、内臓)や免疫系に大きな効果を及ぼす、
この意味するところを素直に考えれば、ツボの正体としてピッタリの存在です。(*)

当院ではこのような理由から、「感作した(敏感になった筋肉内、筋膜上の)ポリモーダル受容器」を、肩こり・首こり、腰痛、あるいは不眠・冷え性など自律神経系のトラブルの治療対象としています。詳しくは鍼灸・マッサージ治療の対象としてのポリモーダル受容器をご参照ください。

 

(*)ツボや経絡の概念を作った人たちは既にこの世にいないので、いくら特徴が重なるからと言ってイコールと断定することは誰にもできませんが、あくまでも個人的には、ポリモーダル受容器が敏感になりやすい場所を古代の人はツボと呼んだのだろうと思っています。いずれにしてもポリモーダル受容器を上手に刺激することができればツボで起こるとされているような利益を享受できるという事は確かです。

 

 

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