東洋医学理論に基づく通常の鍼治療と、ツボを外した浅い鍼施術の効果を比較した研究
内訳
慢性腰痛×3
片頭痛
緊張型頭痛
変形性膝関節症
慢性腰痛 1
ドイツで行われた実験
慢性腰痛患者を対象に「本物鍼」と「偽鍼(ツボでない場所に浅く刺す鍼)」の効果を直接的に比較した
患者と観察者を盲検、ランダム化、
340人の外来患者を含む、1162人患者(18~86歳)という大規模なもの
平均8年の慢性腰痛歴
30分の治療を週2回
以下の3グループに分け実施
・387人が本物鍼(伝統的東洋医学理論に基づく治療)
・387人が偽鍼(ツボでない場所に浅い鍼)
・388人が標準治療(鍼ではなく、薬・理学療法・運動)
使用した鍼
0.25×40mm or 0.35×50 mm
本数:14~20本
伝統中医学に基づく診断で経穴を決定した
深さ:5~40㎜場所に応じて
中医学の診断と刺入法は国際的に認められた文献、方法に基づくやり方で行われた
*偽鍼グループでは、経穴及び経絡を避けて(背中と下肢に)
本数:14~20本
深さ:1~3㎜
結果
6か月後に2つのアンケートを実施(慢性痛一般を問うものと、腰痛に特定したもの)した結果、
いずれグループも腰痛に改善がみられた。
鍼治療を受けたおよそ半数の患者に良い反応があった
本物鍼と偽鍼は、標準治療のほぼ2倍の効果があった
本物鍼と偽鍼において、効果の違いはなかった
Haake M, Müller HH, Schade-Brittinger C, Basler HD, Schäfer H, Maier C, Endres HG, Trampisch HJ, Albrecht Molsberger. ; German Acupuncture Trials (GERAC) for chronic low back pain: randomized, multicenter, blinded, parallel-group trial with 3 groups., Archives of Internal Medicine, 01 Sep 2007, 167(17):1892-1898.
慢性腰痛 2
米国で行われた実験
「通常の鍼治療」と「最小刺激鍼(非ツボに浅い鍼)」と「鍼治療無し」群の効果を比較
慢性腰痛患者(6か月以上の腰痛歴) 298人
年齢40~75歳
1回30分の治療
8週に渡り計12回
通常の治療群は、東洋医学理論に基づいてツボを選定
最小刺激鍼群は、腰以外の部位で経穴を避けて、切皮だけの浅い鍼
鍼(通常鍼と最小刺激鍼)は鍼治療無しグループよりも慢性腰痛改善に効果的であった
本物鍼と最小刺激鍼の間に有意な違いはなかった
Brinkhaus B, Witt C, Jena S, Linde K, Streng A, Wagenpfeil S, et al.;Acupuncture in patients with chronic low back pain – a randomised controlled trial. Arch Intern Med 2006;166:450–7.
慢性腰痛 3
英国で行われた実験
目的: 皮膚内・皮下組織への鍼刺激が、プラセボよりも効果的か否かを調べること。
*この実験では、他と異なり「浅い鍼」と「全くのプラセボ」の効果を比較しています。
伝統的な治療で効果を見ていない慢性腰痛患者を対象
8人を浅い鍼
9人を偽鍼(プラセボ)
浅い鍼群:
皮膚内・皮下組織への鍼による侵害刺激(およそ4㎜)を週1回、短時間
トリガーポイントのすぐ表層の皮膚に刺鍼
プラセボ群:
鍼は全く行わず、電極パッド皮膚に貼っただけ(電流も流さず)
結果
5つの視点から効果を計測した結果、
5つ全ての項目において、浅鍼群は、プラセボ群よりも効果が高かった。
5つの項目のうち4つは統計上有意な差であった。
加えて、すべての測度の平均は、浅鍼群がプラセボ群よりも有意に優れていることを示した。
浅い鍼が慢性腰痛に効果的(痛みの軽減効果)であることが示された。
Macdonald AJ, Macrae KD, Master BR, Rubin AP; Superficial acupuncture in the relief of chronic low back pain.- A placebo-controlled randomised trial; Annals of the Royal College of Surgeons of England, 01 Jan 1983, 65(1):44-46.
片頭痛
ドイツで行われた実験
「通常の鍼」と「シャム鍼」、「鍼なし」グループを比較
302人の片頭痛患者を対象
平均43歳
8週にわたって12回の治療
鍼グループ(「通常の鍼」と「シャム鍼」)と非鍼治療グループに違いがあった
「通常の鍼」と「シャム鍼」の間に違いはなかった
結論として
鍼は無治療よりも片頭痛に効果があるが
本物鍼と偽鍼の効果は類似している
鍼の非特定的生理的効果のせいかもしれないし、強力なプラセボ効果のせいかもしれないし、その両方によるものかもしれない
Linde K, Streng A, Jurgens S, Hoppe A, Brinkhaus B, Witt C, et al.; Acupuncture for patients with migraine. A randomized controlled trial. JAMA 2005;293:2118–25.
緊張型頭痛
ドイツで行われた実験
目的
「通常の鍼」と「最小刺激鍼」と、「鍼なし」の効果を、緊張型頭痛の患者を対象に調べること
ランダム化比較試験
270人の慢性緊張型頭痛
ツボ:頭痛治療に用いられる膀胱系・肝経・督脈・合谷など症状に応じて深さ・太さを選定し治療
非ツボ:ツボから1横指以上(~6横指)離れた場所
8週に渡り12回の治療を行った
結果
Responder(頭痛の生じる日数が50%以上減少した者)の割合は、
鍼群46%、最小鍼35%、無治療4%
鍼治療(通常鍼、最小刺激鍼)は、無治療よりも効果的であった
通常鍼と、最小刺激鍼の差は統計的に有意ではなかった
Melchart D, Streng A, Hoppe A, Brinkhaus B, Witt C, Wagenpfeil S, et al. Acupuncture in patients with tension-type headache: randomised trial. BMJ 2005;331:376–9.
変形性膝関節症
ドイツで行われた実験
変形性膝関節症の患者を対象に最小刺激鍼と無鍼で効果を比較した
実験内容
294名を対象
一回30分
8週にわたって12回の治療を行った
週2回×4週 + 週1回×4週
鍼群:ツボの選定は東洋医学理論に基づいて行った
最小刺激鍼群:非ツボに浅く刺入
無鍼群
鍼治療群は、最小刺激と無鍼よりも、有意に痛みの減少・関節機能の改善が見られた
Witt C, Brinkhaus B, Jena S, Linde K, Streng A, Wagenpfeil S, et al.; Acupuncture in patients with osteoarthritis of the knee: a randomised trial. Lancet 2005;366:136–43.
まとめ
英国での研究を除いてサンプル数も十分なものばかりなので得られた結果は一考に値します。
ご紹介した研究ではいずれも、鍼治療(通常の治療・最小刺激鍼)は、鍼治療無しよりも効果が認められています。
最後の変形性膝関節症の研究を除いて概ね、「東洋医学理論に基づく通常の鍼治療グループ」と、「ツボでない場所に浅く刺した鍼のグループ」での違いは出ておりません。
「効果」の意味を(一時的)鎮痛という内容で判定する限りは、浅い鍼で効果が得られることと、
経穴・経絡に特別な効果がある訳ではないということが、これらの実験からは示されています。