首コリの治療

首コリの治療

 

首こり治療について

腰との共通性

 

首と腰は、脊柱の上部が下部かという場所の違いに過ぎず、脊柱に沿って縦に走る筋肉群という構造なので治療する側から見ればかなり共通点があります。

 

腰は上半身全体の重みを常に支え、首は頭の重みを常に支えるという働きをしています。

重みが前にかかるほど、テコの原理で筋肉の負担が増えるという点も共通してり、猫背・前傾姿勢が腰に、うつむいてスマートフォン、PCを見る姿勢が首に悪いという事になります。

首コリの原因

( Travell & Simons, 1999より)

 

腰の筋肉との違い

 

腰の筋肉との違いは、ボリューム(筋肉量)が圧倒的に少ないので症状改善(コリの解消と痛みの緩和)までにかかる時間は少ない傾向にありますが、とにかく細かい筋肉がたくさんあるので技術的な難易度が高いという事です。

 

腰と首の筋肉

(↑『Netter 解剖学アトラス』より: 首肩の周りには、曲線を描きながら様々な方向に走る細かい筋肉がたくさんあるので鍼でもマッサージでも技術の差がはっきり表れる部位です。)

 

頸部の筋群(首こり)

( Travell & Simons, 1999より)

解剖図で見るとそれぞれの筋肉ごとに分かりやすく描かれていますが、実際に生身の人間の身体をエコーで確認しようとすると全く様子は異なっています。あちこちの方向に走っていて、一つ一つの筋肉を追いかけようとしても途中で膜組織のようになって隣の筋肉や筋膜と癒合していつの間にか消えているというような複雑さです。つまり、実際の筋肉の状態は、解剖図で見るような、筋肉が一つ一つきれいに分かれた作りにはなっていません。

 

僧帽筋なども後頭骨から頸椎の半ば過ぎまで(7つある頸椎の4番目くらいまで)はほとんど「膜」といっていいくらいの薄さでしかなく、首の付け根あたりだけしっかり厚みがある、という作りになっています。この辺りも解剖図からでは分からない事です。

 

下図は頸椎下部(C5、C7)の断面図ですが、筋肉が5層くらいに積み重なっています。

第五頸椎の深層筋

(第五頸椎での断面図: Travell & Simons, 1999より)

 

首コリの深層筋の治療

(第7頸椎での断面図:『Netter 解剖学アトラス』より)

マッサージで外から十分な刺激が入るのは僧帽筋(←後頭部から首の半ば過ぎまでは「膜」ほどの厚さでしかない)と頭半棘筋(こちらがメインになります)くらいまで(つまり上の図で言うと、5層のうちの2層目くらいまで)です。実際、頭半棘筋が緩むとかなり楽になりますが、その下にある深層筋(こういったものもインナーマッスルと呼ぶのか分かりませんが)が姿勢維持のために働き続けるので悪いコリが蓄積しやすく根本的解決には治療が欠かせない部位です。

特に、首の付け根の辺りは頭の重みを支えるために力が集中するのでとても悪いコリができやすい部位です。

 

筋肉が緩むと、頭を前屈・側屈させたときのツッパリ感が以前とまるで違ってくるので肩こりよりもはっきりと治療による差が実感(主観的に)できる場合もあります。

首(頭)を動かしてコキコキ鳴っていたのが、各筋肉(特に深層筋)が緩んでくると、音がしなくなることがしばしば起こり、驚かれる患者様もいらっしゃいます。

頸椎の骨同士を圧縮していた力から解放され骨同士のぶつかり(摩擦)が減るためと思われます。

 

後頭下筋群について

 

後頭下筋群と呼ばれる上頸部の深層筋は近年のデスクワークやスマートフォン・PC生活で注目を浴びている筋肉群です。一部は工夫次第で指も届きますが、ほとんどがかなり奥まっており届かないので鍼が威力を発揮する場面です。

 

首こりの深層筋

首こりの更なる深層筋

(『Netter 解剖学アトラス』より)

後ろから見ると分かりませんが、横から見ると後頭下筋群はかなり奥まって存在することが分かります。

後頭下筋群は、位置的に見て、頭の重みを支えるというよりも、視覚などに連動し頭の位置・向きの調整や視線の固定、微調整などに与するのが主たる仕事と思われます。臨床現場での傾向から、緊張などの精神的ストレスなどの影響を強く受けやすい部位という印象です。

後頭下筋群_横から

(横から見た後頭下筋群の位置:緑・赤・青; 体表面のライン:黄色線)

 

 

2,3層くらいまではマッサージ治療で十分、対応可能です。

 

鍼治療であれば、深層筋まで含めコリや痛みの解消の効果という意味ではかなり期待できますが、難点は、下部頸椎周辺のコリは慢性的なものであれば響きがとても強く、特に治療初期のころは跳ねっ返りというか治療後の筋肉痛や違和感が出やすいのでその点を理解したうえでどのようにソフトランディングを図るか、ということが臨床上重要なポイントです。

 

 

 

参考)

『Netter 解剖学アトラス』, F.H.Netter, 訳 相磯貞和,  南江堂.

Travell & Simons’ Myofascial Pain and Dysfunction The Trigger Point Manual; D Simons., J Travell., 2e,1999,p.72-142 Wolters Kluwer.