腰痛(外側部)について

外側部での腰痛について

 

腰部外側は腰痛の好発部位です。ここで生じる腰痛について考えてみたいと思います。

具体的には、1.どの筋肉なのか?、 2.なぜこの部位で疼痛が出やすいのか? について考えてみます。

 

 

肩こりについて」でご紹介した厚生労働省の国民生活基礎調査の通り、身体の有訴部位は男女問わず常に「肩こり」と「腰痛」が1位、2位を占めています。

もちろん当院にお見えになる患者様も同様の傾向です。

肩こり・腰痛など身体の有訴部位

( 国民生活基礎調査 : 平成28年度、25年度の有訴部位について )

 

肩こりのところでもご紹介いたしましたが、男女とも肩こり・腰痛1位,2位を占めるという傾向は調査開始以来ずっと一貫しており変わりません。

 

筋筋膜性の腰痛の多発部位

ご存じの通り、腰痛には様々な原因・タイプ(*)があります。筋・筋膜に由来する腰痛の疼痛部位・圧痛部位の多くは多裂筋(fig.1,2の青丸)か、外側(fig.1,2の赤丸)で見られます。

(*)筋膜・筋肉、椎間板、靭帯、関節包、神経、それぞれ痛みの原因となりえますし、他にも内臓疾患からの関連痛、精神的ストレス、気温・気圧の変化などによるストレスなど運動器以外が原因の場合もあります。

場所を図で確認しておきます。

( fig.1 : 筋・筋膜性の腰痛の多発部位:表層の筋肉)

腰痛の多発部位の図:全身の筋肉画像

 

( fig.2 : 筋・筋膜性の腰痛の多発部位:深層の筋肉)

腰痛の頻発する部位についてのイメージ

 

マッサージ・指圧で刺激の入れられる深さ

普通の体格の方でも腰部は筋肉に厚みがあります。指の場合、ほぐれるのに十分な刺激がしっかり入るのが大体2~3cmくらいまでだと思われます。この数字に科学的根拠はあるわけではありませんが、当院ではエコーなどで確認した結果おおよそそのくらいだろうと見積もっています。

(エコーで見るまではもっと深く刺激が入っているものだと信じていましたが、皮膚・脂肪・特に表層の筋肉の衝撃吸収能力は結構高いようで深層に至る前に力が分散されてしまい、施術者が思っているほどは奥まで刺激が到達しないことにショックを受けました。ラグビー選手があれだけ激しくぶつかり合っても大けがしないのは分厚い筋肉でかなり衝撃を吸収できるからでしょう。)

バケツにゴムボールがたくさん入っているとして一番奥のボールに圧力を届かせたいという場合に似ています。(fig. 3,4)

したがって悪い部位がある程度深くにある場合は指よりも鍼の方が圧倒的に効果的です。

 

( fig.3 : 指圧刺激における力のかかり具合の模式図 : 刺激を入れる前 )

マッサージの押圧刺激が筋肉にどのように入るかの解説

 

( fig.4 : 指圧刺激における力のかかり具合の模式図 : 刺激中 )

指圧刺激が筋肉にどのように伝わるかについて

 

1.どの筋肉が痛みの原因か

腰痛に話を戻しますと、

外側部の圧痛点(fig. 1,2 の赤丸の部位)は一般的に「腰方形筋」だと説明されることが多いのですが今回は本当に「腰方形筋」なのかについて考えてみたいと思います。オーソドックスな教科書での記述や臨床現場でも、腰方形筋と教わります。

しかし、

これについては私がまだ鍼灸師・マッサージ師の免許を取る前の、専門学校時代から長年疑問に思っていました。

場所的に考えて腰方形筋にそんなに力がかかっているとは思えなかったことと、指での圧痛を訴えている部位と腰方形筋の位置(深さ)が一致しているように思えなかったからです。

もちろん中には本当に腰方形筋に痛みが出ている方もいらっしゃるでしょう。ただ多くの方はそうではないのではないか?という疑問が常にありました。

それを証明する手段がないまま過ごして来ました(名前が何筋であれ、患者様が「そこだ」という位置に刺激が入れられていれば臨床的には最低ラインはクリアされます。頭でわかっていて実際に探れない方が悪です)がエコーを使用して、普通なら「腰方形筋」の痛みと言われるであろう患者様にご協力をいただき確認することにしました。

( fig.3 腰部断面図 )

腰部の断面図

この辺りの様子をエコーで調べることにします。

( fig.4 腰部エコー画面 )

腰部のエコー画面

 

紫丸の部分が筋硬結・圧痛部位です。

疼痛部分・圧痛部位は筋膜が肥厚して白く映る傾向があります。ここに鍼が当たった時に再現痛が出ることが確認されました。

画像から明らかなように腰方形筋ではなく脊柱起立筋(腸肋筋)です。

( fig. 5 :  fig.4の画像の解説 )

腰部のエコー画面の解説図

( fig. 6 : 分かりやすいように腰椎の図を fig.4 エコー画面に合わせてみます。)

腰部のエコー画面に腰椎を合成の図

 

お断りしましたように、もちろん本当に腰方形筋が痛い方もいらっしゃると思いますが、当院で腰の外側部に痛みを感じている患者様数例を確認した限りは脊柱起立筋でした。

 

2.なぜこの部位で腰痛を生じるか?

問題はなぜこの部位なのか?ということです。

一般に我々が目にするこの部位の断面図は ( fig.7 )のようなものです。

脊柱起立筋、腰方形筋、脊椎の横突起などが綺麗に直線的に仕切られています。

( fig. 7 : たいていの図では脊柱起立筋と腰方形筋など各部位は綺麗に分かれている)

腰部の断面図では腰方形筋と脊柱起立筋は綺麗に分かれている

 

 

しかし、実際の生身の人間ではエコー画像 ( fig.4 )から明らかなようにかなり急な曲線を描いています。

腰椎の横突起によって下から脊柱起立筋が押し上げられて、横突起のない部分は支えを失って急激に落ち込んでいる、という形状になっていることが分かります。

 

 

横(水平)の断面図だけではなく、縦(長軸方向)の断面図でも確認してみます。

( fig.8 : このラインのエコー画像を撮ってみました)

長軸方向での腰椎および仙骨

( fig.9 : 以下のエコー画像はこんな感じです)

第一腰椎から第五腰椎まで

( fig.10 : 腰部 縦の断面図 エコー画像)

脊柱起立筋の長軸エコー画像

( fig.11 : エコー画像の解説 :  縦方向にも波打つ脊柱起立筋(腸肋筋))

腰部の脊柱起立筋:解説

縦に割っても各腰椎の横突起で脊柱起立筋は波打つような走行になっていることが分かります。

( fig.12 : 生きている人間の実際の脊柱起立筋の走行は下図の赤いラインのようになっています)

第一から第五腰椎までの図:解説

このように、脊柱起立筋は長軸方向から見ても短軸方向から見ても腰椎の横突起によって持ち上げられている形になっていることが確認されました。

 

結論:

腰部外側での腰痛の原因筋は一般に言われているような腰方形筋ではなく、脊柱起立筋と考えられます。

 

 

横突起の付近の筋肉(脊柱起立筋)は、テントの柱のように下から突き上げてくる横突起によって絶えず物理的なストレスにさらされていることが分かります。

筋肉内の血管(毛細血管)は圧迫され続けることになるので虚血に陥りやすい → 硬結ができやすい → 痛みを生じやすい という流れが浮かびます。

寝ていてこの状態ですが、

起きている時は脊柱起立筋が緊張しますので縦にピンと張った状態になりますが、そうすると当然、横突起に、より強く押し当てられることになるので長時間の座位が腰によくない、というのは非常に納得できます。

( fig.13 : 腰椎の図)

椎骨:腰痛の説明

上図から分かるように(横突起は一番顕著ですが)腰椎自体あちこち突起だらけで近接する筋肉などの軟部組織は絶えず圧迫されているのがデフォルトの状態です。

多裂筋も含めて多くの人で同じような場所で硬結ができやすく疼痛・圧痛が頻発するのもこう言ったことが一つの原因になっている可能性があります。

 

肩こりは比較的簡単に解消できますが、腰痛や首コリの治療に必然的に手間がかかるのは、筋肉が深い上に、このような細かな突起がたくさんあり、そこに細かな筋肉、じん帯、関節包、骨膜など痛みの原因となりうる軟部組織が多く存在するからです。しかしこれらを丁寧に取っていくとほとんどの筋・筋膜性腰痛はかなり良くなりますから一般に言われているほど原因不明の腰痛は多くないと当院では考えております。