スマホ首の治療

現状:

ここ数年でこの症状を訴え来院される方が急激に増え、現在、スマホ首首こり)で当院にお見えになる患者様は、肩こりと並び多数を占めます。肩こりを抜く勢いに見うけられます。

 

首こり:

脊柱のS字カーブで重みをうまく分散する仕組みを取っているとはいえ、人間の頭は種々の生物と比較して分かるように不自然なほど重いので、例え良い姿勢でいても首の筋肉に負荷がかかります。つまり、通常の状態でも人間の生体の構造上、首コリは生じやすい症状です。

 

スマホ首の性質:

長時間、下方を向いてPCや小さな画面のスマートフォンを操作する(=明らかに悪い姿勢)ことにより生じる「スマホ首」は従来の「首こり」の悪性度が高まったものと捉えられます。

 

痛みの部位:

スマホ首を訴えていらっしゃるほとんどの患者様は(眼精疲労や精神的ストレスで異常が出やすいと一般的に捉えられている後頭部ではなく)首の付け根(~肩)、あるいは上背部に痛みや不快感を感じて来院されています。

当院で診てきた患者様はほぼ例外なく、両側ではなく左右のどちらかに痛みを感じていらっしゃるのが特徴で、このことからも筋肉疲労によるものであることが強く疑われます。

 

肩こりとの違い:

肩こりの場合は、凝る原因筋が正確に理解できていれば施術自体は比較的単純で、しかも腰のような筋肉の厚みはないので鍼を用いなくてもマッサージでたいていの場合解消できます。

しかし、首こり・スマホ首の場合、原因筋が細かく深く、しかもかなり硬くなっていることが多いという特徴があり、ある一定以上の悪さになると、鎮痛を超えて根本から治したい場合は、指(マッサージや指圧)や、運動療法、整体などのストレッチ系の操作ではほぼ不可能だと当院では考えています。(図4、図5)

*軽度のものは(スマホ首に限らず)常識的な治療であればどんな治療でもたいてい良くなります。

 

原因:

原因は誰もが知る通りうつむいて長時間、小さな画面を見続けることで後頸部上背部の筋肉が過労することにあります(図1~3)。

 

(図1)

首コリの原因

( Travell & Simons, 1999より)

 

(図2)

首コリの説明

頸椎7・胸椎1番辺りを支点にして頭が前に倒れる構造になっていますが、図2のAの場合、大して筋力を使わずに済みますが、Cのような場合はテコの原理で頭の重みを引っ張り続ける筋肉と椎間関節・椎間板に相当負担がかかることになります。

 

(図3)

首コリの説明図

図3のような状況をイメージしていただければ分かりやすいと思います。同じ重さの物でもC’のような支え方をすればかなり疲労するのは容易に想像がつきます。

 

解剖図で確認しますと、(図4、5)は僧帽筋をめくった状態ですが、これらで示されているような、いわゆる頸部深部筋群にダメージが蓄積していくるとポリモーダル受容器が痛み信号を発し始め、痛み不快感を感じるようになります。

肩こりなどを含めたすべてのコリに共通することですが、初期の時点であれば、運動したりストレッチをするなどすれば血流が改善するので痛み物質も血流に乗って流されて無くなるので、ポリモーダル受容器の痛み信号の発信も止まります。

しかし慢性化してコリがかなり硬くなると周りの世界から完全に閉ざされた状態になるので、温めたり運動やストレッチなどでは血流は回復できなくなってしまいます。

 

(図4): 僧帽筋をめくった状態

首こりの深層筋

 

(図5): さらにその下層の筋群

首こりの更なる深層筋

 

(図6): 断面図

首コリの深層筋の治療

断面図で確認すると(図6)のようになります。

 

(図7): エコー画像

頸部の深部筋群

エコーで確認すると(図7)のようになります。

 

鍼治療の有意性:

深い部位は、標準的な体型の成人男性で深さが4-5cmほどあります。この深さになると指(マッサージ・指圧など)では無理だというのはお分かりいただけると思います。

これらの小さな筋群(インナー・マッスル)は、目に見える派手な”運動”時にではなく、バランスや姿勢の維持に使われる筋群で悪い姿勢で長時間過ごすとダメージが蓄積されていきます。

これらのコリは短縮して頸椎を引っ張り合い椎間板を圧縮する力として働くので、長年に渡りその状態が続くと椎間板の変性変形性頚椎症椎間孔の狭小神経根症状(腕・指の痛みやしびれや筋力低下)へとつながっていくと考えられます。

特筆すべきは、とても小さな筋肉にもかかわらずひどく凝っている方の場合、他の部位ではまず見られないくらい硬くなっていることが多々あるという事です。

凝っていない筋肉が「プリンや豆腐を箸で刺す」場合だとすると、とても悪いコリは「硬めの羊羹や半分乾燥したチーズを箸で刺す」場合をイメージしてください。ちょうどそのような感触が鍼先から得られます。

このような鍼先に伝わってくる感触から分かる異常な硬さから判断すると、悪化した首こりに関しては、ストレッチや整体などの体表外からの操作で緩めるのはかなり難しいと考えたほうが良さそうです。

実際に他でいろいろと試されて来院される方々が同様の意見を持たれ、患部に直接届く鍼の有用性を認めておられるのを耳にします。

肩こりや背中のコリなどはマッサージをはじめ有効な治療法がいくつもあると思いますが、首こり(スマホ首)や腰の深い部分での重度のMPS(筋筋膜性疼痛)を根本的に治す手段として、物理的に直接アプローチできる鍼はダントツに優れた手段だと言えます。

 

最も典型的な治療の進め方

 

ステップ1:表層の筋肉(僧帽筋・頭半棘筋あたり)についてはマッサージでも鍼でも可なので患者様のお好みに合わせて選択

ステップ2:深部の筋群 : 鍼で治療

 

*状態がそこまで悪くなかったり、他の治療で表層筋に問題がなければ独立したステップ1の段階を設けずにダイレクトにステップ2の段階に入る。

* 症状の悪い場合、刺激が入ったことでしばらく筋肉痛・違和感、場合によっては一時的に余計悪化したかのような感じになることもある。(なぜそれが生じるか、そのとき何が起こっているかについては ☞「 鍼は痛いのか?」内のコリが刺激された時の神経性炎症ー治癒過程の話 、 ☞ 「ポリモーダル受容器とは? 」、☞ 「鍼灸マッサージ治療の後の筋肉痛・だるさ」等を参照)

 (普段、絶対刺激の入らない部位で、悪いなら悪いなりにバランスが取れていた部位が刺激されるので治療始めの頃は感覚が暴れるような感じの時期を経験される患者様もいらっしゃる。)ただし、その場合でも首のツッパリ感からの解放感や筋肉自体の柔らかさは感じられる。

治療が進んでくるとそういったこともなくなりMPS(筋筋膜性疼痛)が取れてくる。

 

後頭下筋群の治療については ☞ 首コリの治療