答:当たれば効くの一言に尽きます。(効く:コリの解消、コリに起因する痛みの除去の意味として)
鍼の効果を示すたくさんの実証研究がありますので、本来ならそちらから結論を示したいところですが、それらの論文が果たしてどこまで信頼できるものか確信が持てないので仕方なく…日々の臨床経験からになってしまいますがその中から言えるのは、しかるべき所に「当たれば効く」という事です。
まず、「WHOが鍼の効果を認めている」という話がよくありますが、その根拠としている(初期の)中国の論文の質の悪さは有名ですので「WHOが〇〇症・病に対して鍼の効果を認めている」という類のお話は意識に入れない方が良いと思います。国際機関は公正さや真実性とは程遠く、腐敗しているのは今や多くの人が知るところですし、真実を追求する慎重さとスピリットに欠けた人達が書いた論文は何の意味も持たないどころかのちの混乱を招くだけなので本当のことが知りたい人間にとっては非常に迷惑な話です。(鍼が赤痢やコレラ、感音性難聴…等々に効果がある、などいくら何でも無茶苦茶やり過ぎです。)
それはさておいてその後にdry-needlingも含めておよそ「鍼」の効果を調べる実験は世界中で数多くなされています。近年では欧米を中心にシステマティック・レビューやメタ・アナリシスといったより信頼性の高い論文が多く出されていて以前に比べれば格段に良い情報にアクセスできるようになりました。しかし、それでもなお(客観的真実を確かめたいという公正な人が試みても)「鍼」の効果を「科学的に」調べるのは性質上とても難しいのです。(詳しくは鍼の効果を科学的に調べることの困難さをご参照ください)
つまり、何かを証明するためには、しっかり「統制」された実験を行う必要がありますが、人を相手にして鍼・マッサージの効果を調べる場合この「統制」がものすごく難しいのです。
薬で行われるような二重盲検法が使えない。→ 鍼の場合、刺されたか刺されていないかが分からない、という状態が通常考えられない。
また、シャム鍼(*)として使用される鍼が、実は日本ではシャムどころかメインの治療のひとつとして行われている、という事情があったりします。
それから、場所も厳密に統制される必要がありますが、「〇〇から1cm離れたところに深さ1cm」と決めたところで体格によりその1cmの持つ意味は異なります。伝統的な取穴法で表面の位置の件はクリアできたとしてもツボの「深さ」は統一的に決まっている訳ではありませんので同じ問題は残ります。
仮に、これらの条件をすべてクリアできたとしても、目的とする場所・深さに寸分の狂いもなく打てるのか?という技術的な問題もあります。(もちろん刺し直しは不可です。1回刺激を受けた人と、2回刺激を受けた人とで条件が異なってしまうからです)
(*)シャム鍼:効果がないとされる、最小刺激のこと。ただし、世界で「シャム」(=効果がない)とされている「皮下だけの刺鍼」やあるいは「刺さない鍼」も、日本では効果的な重要手技の一つとして捉えられており、実際に広く行われている。誰もが納得できるシャム鍼が開発できれば二重盲検法を使用して薬の効果と同じ次元で鍼の効果を語ることが可能になります。
また、東洋医学でも中医学のスタンダードな立場から言えば古代から伝わるツボに刺すから効果があるのでツボを外して打つ鍼は効果がないことになります。論文によってはこの立場からツボに打ったグループと非ツボに打ったグループ(後者をシャム鍼のグループとする)の間で効果を比較するという事も行われています。発表されているという時点で想像がつきますが前者の方が後者より(明らかに)効果があった、という結果の論文です。
日本で広く行われている鍼灸治療では、ツボとされている部位にそのままダイレクトに指すのではなくその周囲を探って一番効果がありそうな所、悪そうな所に刺すことが多いです。これは中医学系の治療師から見ればわざわざ非ツボに打っているに等しい行為(彼らから見ればナチュラルに「シャム鍼」治療をしていることになる)なので非常に不思議に見えるようです。
このように東洋医学も一枚岩ではありませんので、例えあらゆるバイアスを廃して厳密に実験が行われたとしても、どのような立場の者がどんな方法でどんな治療をしてそういう結果が出たのかということも加味して考える必要があります。
要するにいろんなことが統制されていない(したくてもできない)ので、そういった中でいろいろな論文が発表されても本当に本当か何とも言えないので患者様にこの質問をされたときは、今までの自分の臨床経験からになってしまいますが、「当たれば効きます」というお答えしております。
もちろん、臨床効果としてではなく、生理学的な説明でよろしければポリモーダル受容器に関するコンテンツで記述しているように鍼の人体に対する影響・効果についてほとんどの部分しっかり解明されていますので自信をもって「効果はあります」ということができます。