鍼刺激とfMRI脳イメージングのレヴュー論文
『 Characterizing acupuncture stimuli using brain imaging with fMRI–a systematic review and meta-analysis of the literature 』
1990年代から脳イメージングの測定が成長を遂げPETやfMRIを使用しての研究報告がなされるようになってきました。
2012年に、fMRIを用いた過去の論文を対象にしたシステマティック・レビュー研究・メタアナリシス論文が出版されているのでここで内容をご紹介いたします。全体像をつかむのに役に立ちます。
このレビュー論文では、以下の点について、鍼刺激に対する脳反応についてレビュー、メタアナリシスを行っています。
1 偽鍼と本物鍼の違い
2 鍼操作の各手法について違いあるか
3 患者と健康人
4 ツボの特異性あるか?
全体像
今回の2012年論文は、
779本の論文に当たり、そのうち149本が採用基準を満たしているものとしてピックアップされ、
34本がメタアナリシスに適切な論文であったとして解析対象とされています。
複数の報告が、鍼による特定の脳エリア(体性感覚皮質、辺縁系、基底核、脳幹、小脳)の反応を報告しています。
本物鍼と偽の鍼の脳反応の違いは、中帯状回において顕著に表れること、
感覚運動皮質、辺縁系領域、小脳などにおいては研究によってばらつきがあったこと、を報告しています。
結論として言えることは、
鍼への脳反応は単なる体性感覚野にとどまらず、情動、認知処理の領域により成る広いネットワークを含む。
研究ごとにばらつきはあるものの、そのほとんどの研究で、「鍼は脳の特定領域においてその活動を調整する作用がある」と報告しているが、そのことがメタアナリシスにより確認できた。
具体的内容
25の研究のうち、3分の2は鍼刺激により活動が活発化した。主に、体性感覚野、運動野、基底核、小脳、辺縁系、と前頭前野などの高度認知エリア
3つの研究は鍼刺激で辺縁系での大きな不活発化を示した
対照的に、1つの研究では補足運動野における偽鍼(非ツボ)への反応は大きなものだった。
5つの研究では偽鍼と本物鍼の間に有意な差がなかった。
1つの実験では、2回分析をし、異なる結果を得た。
6つの研究のうち、2つは本物鍼(ツボ)と偽の鍼(非ツボ)の間に違いがなかった。
4つは体性感覚野、脳幹、基底核、高度認知エリア、辺縁系の一部(視床、側坐核)において大きく活発化した。
1つは運動野において偽鍼で大きな活動した。
本物鍼は辺縁系の一部(偏桃体、海馬、帯状回)での活動を大きく低下させた。
本物鍼と偽鍼は両者とも刺激が繰り返されるたびに線形的に体性感覚野における活動が小さくなった。
本物鍼は辺縁系―中脳領域での活動が、刺激初期では活発化し、刺激後期では不活発化した。
18の研究が該当。そのうち15の研究が健常者を対象としたもの。
健常者を対象とした研究の1つだけが、体性感覚野において「鍼」の刺激中に大きく活動したが、4つの研究では鍼刺入ではない「皮膚刺激」に対して体性感覚野が大きく反応した
運動野と高度認知エリアにおいては、5つの研究が、「鍼刺激」で、より大きく活動したことを報告している。
脳幹、基底核、小脳、辺縁系においては結果が複雑で一致を見ていない。
基底核、脳幹と小脳において2つの研究は鍼で活動低下を見せたが、
3つの研究ではより活発になった。
視床と島はより活発化し、
視床下部、海馬、偏桃体、側頭葉は鍼で活動レベルが大きく低下した。
加えて、鍼の響きを感じている時は小脳、脳幹、大脳とも大きく活動低下した。
5つの研究においては、本物鍼と偽鍼(皮膚だけへの刺さない鍼)で反応に有意な差異はなかった。(そのうちの2つは本物鍼において小脳と頭頂葉に大きく反応が出ていたが偽鍼よりも有意に大きいという訳ではなかった)
一つの研究では、脳卒中患者において鍼刺激中に運動野に大きな活動が見られたが、他の研究では、ブラシによる皮膚刺激の方が運動野、体性感覚野に大きな活動が見られた。
パーキンソン病患者において、鍼刺入は単なる皮膚への刺激よりも運動野、基底核、視覚野、高度認知エリアにおいて大きく活動を見せた。
手技による違い – ( 深さ、電気vs手技、刺激の強さ、周波数、持続時間などの比較 )
4つの研究のうち、2つは、「深い」vs「浅い」では、有意な差を認めず。
一つは、ほとんどの脳エリアで深い鍼が大きく活発化した。
他方、浅い鍼が体性感覚野、運動や、言語野(ブローカ、ウェルニッケ)で大きく活発化し、深い鍼で辺縁系が活動低下を示した。
3つの研究結果が示すのは手技刺激と比較して、電気刺激の方が、活発化させる場合はより大きく活発化させ、活動低下させる場合はその低下量は小さい傾向。
脳活動に関して、電気鍼での2つの研究が、より大きな活動を体性感覚野、運動野、脳幹、帯状回、島にもたらした。
そして一つの研究では、有意な違いはなかった。
脳活動の低下に関して、2つの研究が、手技はより大きな活動低下を辺縁系、(後頭葉)楔部、横側頭回、あるいは中前回で確認。しかし、2つの研究ではは電気鍼刺激でより大きな活動低下を脳中隔、前楔部で確認。
2つの研究が周波数について報告している。
脳幹が100Hz(高周波)よりも2Hz(低周波)で、より活動が高まった。
2Hzと20Hzでは有意な違いはなかった。
6つの研究がありそのうち1つは、長い時間の手技による刺激は短い刺激よりも、より大きな活動を下前頭回、側頭回、頭頂葉、後頭葉、小脳、側頭葉において生じ、
大きな活動低下を前頭前野、眼窩回、橋で示した。
4つの研究はより大きな活動を体性感覚野、辺縁系、視覚野、言語野、高度認知エリア、を刺激無し(鍼を刺したまま置鍼)と比べて、刺激アリの方で記録した。
手技により響きを誘発した刺激は、響きを誘発しない刺激と比較して、後中心回、辺縁系、での大きな活動を見せた。
7つの研究が該当。
脳卒中後遺症患者において、前頭葉が活性化、 健常者では運動野が活動した。
アルツハイマー病患者は帯状回と小脳において大きな活動を見せた。
ヘロイン中毒者は視床下部において大きな活動が生じた。
脳性麻痺の子供は健常者の子供と違い、第一次運動皮質(M1)、海馬傍回、高度認知エリアで活動レベルの低下を示し、楔部と島で大きな活動を示した。
尾状核、視床、小脳では脳性麻痺の子供よりも、健常児において大きく活動を示した。
手根管症候群の患者が、治療前と5週間の治療後の状態を、健常者と比較した。
患者群において、鍼治療の後、鍼治療と反対側の一次体性感覚皮質(S1)と一次運動野(M1)領域において有意な活動レベルの減少が確認された。
そしてS1領域において第2指と3指の皮質の表象の分離も増強した。これは鍼により神経可塑性が誘発されたことを示唆する。
加えて、皮膚への手技鍼を患者と健常者で比較したところ、患者では、健常者よりも本物鍼に反応し、偏桃体での活動レベルの低下が小さく、外側視床下部における活動がより強かった。
さらに、手根管患者は偽鍼にも反応し、体性感覚皮質、高度認知エリア、感情エリアで大きな活動を示した。
脳梗塞後遺症患者は鍼刺激によるS1での活動が健常者よりも高かった。
76の論文がツボによる特定の脳変化(活動・非活動)を調べている。
LI4(合谷), ST36(足三里), PC6(内関), LR3(太衝), GB34(陽陵泉)が良く調べられているツボ。これらは臨床で広く使用される。
全体的に言ってデータは、鍼刺激は主に体性感覚皮質、運動野、視覚野、聴覚野、小脳、辺系、高度認知エリアの脳活動に影響がある。と示す
それぞれのツボを刺激した時の脳地図はそれぞれかなり異なる。
しかしながら、同じ経絡上のツボは活動・非活動パターンにおいて幾らかの類似性を示す。
例えば、胃経上のツボは、縁上回の活発化と、後帯状回、海馬、海馬傍回の非活動を示す。
加えて、視覚に関連するGB37,UB60は楔部のような視覚野の活動レベルの低下を示す。
*Zi-Wu-Liu-Zhu :中医学理論による開経穴時、閉経穴時。体の気と血液の循環のスケジュール。開経穴時での鍼治療は臨床上最大の効果が得られ、逆は最小の効果と言われている。
結果は、開経穴時は、閉経穴時よりも鍼で前頭葉、側頭葉、帯状回、小脳での活動レベルを低下させた。
侵害刺激に対するfMRI信号の客観的変化に基づいて判断したところ、鍼の効果に対する正の期待が鍼鎮痛(鍼麻酔)のレベルを上げた。
また、この研究で、「鍼鎮痛(鍼麻酔)」と「期待により生じる「プラセボ鎮痛(麻酔)」の間には異なるメカニズムが存在することが示された。
本物鍼の刺激に対して、高い期待群と低い期待群の間には、一時運動野と中心前回皮質の活動において、ほんのわずかな違いが見られただけであった。
しかし、偽鍼グループにおいては、対側(下前頭回の)弁蓋部、同側の島、下前頭回、中心前回、上前頭回での活動に大きな違いが観察された。
よって、この結果は、期待は本物鍼と偽鍼の間の異なる仕組みに関係していることを示している。
8つの研究が安静状態の機能的結合を調べている。
1つは、本物鍼でのみ、痛み・感情・記憶に関連する脳領域へのデフォルト・モードネットワークの安静時の結合状態が増加したことを報告している。
また、本物鍼でのみ、痛み関連領域への感覚・運動ネットワーク結合の増加を生じた。
鍼刺激は以下の“鍼に関連した”ネットワークに影響を及ぼす。両側前頭回、両側側頭回、下頭頂葉、中後頭回、前・後中心回、前帯状回、海馬、島、小脳扁桃、錐体、頂(culmen)、楔前部、楔部。
本物鍼と、シャム鍼(皮膚刺入アリだが、ツボを少し外して打つ)の後の両者における安静状態における偏桃体関連ネットワークを特定した。
本物の方が、偏桃体と水道周囲灰白質と島の結合を増強し、偏桃体と中前頭皮質、後中心回、後帯状回の間の結合は減少した。
視角関連の機能的ネットワークについて、鍼電気刺激の前・後をGB37(視覚に関するツボ)とそうでないツボKI8において比較した研究ところ、GB37においては視覚ネットワークにおける安静状態の刺激前後の間に正の相関が見られた。一方、KI8には負の相関がみられた。
他の研究では、デフォルト・モードネットワークは、GB37とBL60とKI8の3ツボにおいても、ツボを外した近くのポイントでも鍼電気刺激の後に影響されることを示した。
34の研究がALEメタアナリシスの基準を満たしている。
10のメタアナリシスの合計が行われた。
ツボへの鍼刺激への大きな活動(ベースライン比)にかんするメタアナリシスは36の実験、377の被験者、470の部位を含む。
結果は、縁上回、二次体性感覚、前補足運動野、中帯状回、島、視床、前中心回への有意な収斂を見せた。
ツボ刺激による脳活動の減少(ベースライン比)についてのメタアナリシスは、22実験、219被験者、265部位を含む。結果は、前帯状皮質膝下部、脳梁膝下野、偏桃体、海馬、背内側前頭前野、尾状核、後帯状皮質において有意な収斂を示した。
本物鍼と偽鍼の直接比較による、「本物鍼の方が大きな活動」を見せるもの、あるいは逆に「偽鍼の方が大きく活動レベルを低下」させるもの、についてのメタアナリシスは17の実験、156被験者、171部位を含む。紡錘状回、小脳、一次体性感覚野、中帯状回において有意な収斂を確認できた。
これに対して、「本物鍼が偽鍼よりも活動レベルを大きく低下」させるもの、あるいは「偽鍼の方が大きな活動」を見せるものについての実験は、3実験、21被験者、27部位を含み、縁上回、上側頭回、楔部において有意な収斂を確認した。
本物鍼―偽鍼の差分分析
本物鍼の大きな活動(ベースラインと比較して)を示すデータは、234被験者、20実験、305部位あり、中帯状回、前補足運動野、上側頭回、縁上回、第二次体性感覚、視床、島において有意な収斂を見せた。
本物鍼の大きな低下(ベースラインと比較して)を示すデータは、172被験者、15実験、222部位を含み、前帯状皮質膝下部、偏桃体、海馬、背内側前頭前野、後帯状皮質において有意な収斂を見せた。
偽鍼においてベースラインよりも大きな活動を示すデータは、164被験者、15実験、200部位あり、小脳、縁上回、上側頭回、視床において有意な収斂を見せた。
偽鍼において大きな低下(ベースラインと比較して)を示すデータは、50被験者、5実験、52部位あり、帯状皮質回膝前部、脳梁膝下野、海馬傍回において有意な収斂を見せた。
最後に、
安静状態との比較において
安静状態よりも大きな活動を示した部位を、 本物鍼と偽鍼で比較すると前補足運動野、中帯状回、前障、島、縁上回、二次体性感覚、背外側前頭前野において有意な収斂をしめした。
安静状態よりも低下を示した部位を、 本物鍼と偽鍼で比較すると、偏桃体-海馬内側で有意な収斂をしめした。
まとめ
全体的に、結果が示すのは、鍼の神経イメージングに関する研究は研究テーマ、方法論、質、に関連してとても異質性に富んでいるということ。
鍼鍼と比較して、本物鍼は基底核、脳幹、小脳、島の領域を強く活性化する傾向がある。
そしてデフォルト・モードネットワークと呼ばれる領域や辺縁系(偏桃体や海馬)においては活動がより低下する傾向がある。
鍼の刺激が強いほど、よりしっかりした脳活動が出る傾向がある。
低周波での鍼電気刺激は、高い周波数での刺激よりも広い領域の脳を活性化する傾向がある。
さらに、疾患患者は、健常者よりも鍼刺激に対して、より強いfMRI反応を見せる傾向がある。
異なるツボへの鍼は、それぞれのツボ間で類似性と異質性の両者を見せた。
鍼刺激は、安静状態の機能的結合(いくつかのネットワーク;デフォルト・モードネットワーク、感覚運動ネットワーク、偏桃体関連ネットワークを含んだ)に影響を及ぼす。
鍼の刺激に対する脳反応だけに焦点を当てたメタアナリシスからは、縁上回、二次体性感覚、前補足運動野、中帯状回、視床、前中心回、が活動の増加を示し
前帯状皮質膝前部、前帯状皮質膝下部、偏桃体-海馬、腹内側前頭前皮質、側坐核、後帯状皮質に活動の低下がみられた。
論文:
Characterizing acupuncture stimuli using brain imaging with fMRI–a systematic review and meta-analysis of the literature. Huang W. et al., 2012. PLoS One 7(4),e32960.