肩こりの治療

肩こりの治療

肩こりの一番の原因筋は、一般的には僧帽筋だということになっています。

僧帽筋は一番表層の筋肉ですのでここが主たる原因ならば解決は簡単です。

温めれば比較的簡単に熱は伝わりますし、揉むにしても的を外しようがありませんし、鍼も1~2センチくらいの深さでほとんど網羅できることになります。

しかし、この僧帽筋が肩こりの中心的な原因であるという捉え方は、当院は全くの誤りだと考えています。

肩こり治療に重要な僧帽筋と肩甲挙筋

(Fig.1. Netter 解剖学アトラスより)

 

首肩まわりは何層にも筋肉が重なっており、細かい筋肉があちこちの方向に入り乱れており、どの筋肉もお互いに関連し合って機能しているので、本来どのコリが重要であって他は重要ではないということはありませんが、これまでの当院の臨床経験からは、ほとんどの肩こりで肩甲挙筋が一番の原因筋だと把握しているので優先して施術を行っております。

受けておられるほとんどの患者様も、肩甲挙筋の施術に対して「そこだ」ということで一致していますし、エコー画像でも確認済みですのでまず間違いないと考えられますが、未だになぜこのような単純なことで誤った言説が流布しているのか理解に苦しみます。

(詳しくは肩こりの一番の原因筋について

(エコー画像:僧帽筋・肩甲挙筋・鍼先)

僧帽筋・肩甲挙筋、および鍼先のエコー画像

 

そして、次にとても重要な意味を持つ圧痛の多発地点は頚腸肋筋(および頚最長筋)です。

あまり聞きなれない筋肉名かもしれませんが、肩こりで悩んでいらっしゃる方のほとんどに圧痛を伴う頚腸肋筋(頚最長筋)のコリがあります。多くの場合、両方同じように硬いということはなく、左右どちらか肩こりがつらい側の頚腸肋筋が際立って硬く(圧痛)なりやすいのが特徴です。

*僧帽筋や肩甲挙筋は、つらいと感じている側に限らず両方硬くなっている場合が結構ありますが、頚腸肋筋はどちらか一方に圧痛を伴うはっきりとしたコリができやすいです。

肩こりの治療に重要な頚腸肋筋

(Fig.2. Netter 解剖学アトラスより)

頚腸肋筋はFig.1.に示されている筋肉をすべてめくると現れてくる深層の筋肉です。 

首(頸椎)と背中(肋骨)をつなぐ筋肉で、働きとしては 腕の重さではなく頭の重さを支えたり姿勢の維持に働くのがメインの仕事です。

位置的には肩(ちょうど肩甲骨の内縁の辺りになります)なので患者様の実感としては「肩こり」として意識されます。

働き的には頭の重みを支える筋肉ですので正確には首こりと評価されるべきものですが、位置的には肩(ちょうど肩甲骨の内縁の辺りになります)なので患者様の実感としては「肩こり」として意識されます。肩甲挙筋でなければたいてい頚腸肋筋のコリが主たる原因筋となっています。

頚腸肋筋は深い筋肉ですが、幸いほとんどの体型の方で、指でほぐれるのに十分な刺激が入れられるので鍼の苦手な方でも問題ありません。

他には菱形筋なども併せて凝っていることがほとんどで、強い不快感を引き起こしている場合もありますが、肩甲挙筋や頚腸肋筋のコリからの投射としての不快感であることも多いです。

 

こりが特に治療しやすい点は、結構程度が悪くても、ほとんどの場合、鍼なしでも何とかなるという点です。

*昨今、「凝らない身体を作る」のような不思議なフレーズを目にするようになりましたが、建築士さんが「掃除しなくても決して汚れない部屋を設計します」と言っているようなものなのでまともに信じない方が良いと考えています。

体質により同じ時間、同じ姿勢(動作)でいても、ある人が他の人よりも凝りやすい(or 凝りにくい)という差は出ますが、筋肉に持続収縮をさせていれば血行不良による代謝異常が起こるので誰でも凝ってきます。避けるにはその人の回復能力の範囲内にあるうちにこまめに姿勢を変えたり動きを伴う筋収縮・弛緩を行ったり、温めたりなどするしかありません。

はっきりした筋硬結(こり)になっても初期ならば運動などでほとんど解消できるはずですが、ある程度慢性化すると、凝った部分は周囲から閉ざされた世界になってしまうので、そういった刺激は受け付けなくなります。早めにプロの処置をお受けになる方が最小限のダメージで済みます。

 

肩こりの治療としては以上のような筋肉をまず優先的にコリを取っていき、腕、首、背部、下肢と順々に対象を広げていくのが良いと考えます。

言うまでもなく、下半身という土台の上に、上半身の首や肩が乗っているので気になる一部だけ改善されても本質的な解決にはなりません。目安としては、腰痛でも肩こりでも、その部位の痛みやコリを取るだけではなく、根本的に治すということを目的とする場合は、その部位より下位の治療は必須になります。

たいていは下肢にも悪いコリがある場合が多く、単に一番目立つ肩こりに意識が集中しているだけという事が多いので肩が気にならなくなってくると腰や下肢の悪さが意識化されてくることがしばしばあります。