治療で使用される鍼の太さについて

鍼治療で使用される鍼の太さについて

 

鍼治療で使用される「鍼の太さ」についてご紹介いたします。

目的や考え方、流派、好みなどによって選択される太さや長さがまちまちです。素材についても銀・金などがありますが、現在はステンレス製の使い捨て鍼(ディスポーザブル鍼)がほとんどだと思います。

 

一般論

 

下の表は鍼の太さについて日本式と欧米式の表記を記したものです。

鍼の専門学校では1番から3番鍼0.16~0.2mm)を使用して授業が行われていました。実際の現場では治療院によって全く方針が異なるはずなので一般化は難しいですが日本では大体1~3番が多い印象です。

欧米での鍼のゲージは日本から見ると相当太い方に振り切れているので日本より確実に太い鍼が使用されていることが分かりますが、小田博久氏によれば、「米国や英国では5番から8番鍼が主に用いられ、そのほかのヨーロッパ諸国、特にドイツにおいては10番ないし8番鍼が用いられている」とのことです。

ヨーロッパ諸国の事情は言語が分からないのでチェックできませんが、確かにアメリカ合衆国のおそらく大手と思われるような鍼販売業者のホームページをいくつか見てみると0.3mm~0.4mmくらいまでの太さの鍼が各メーカーから製品化されています。

Travell, Simons & Simons’ 『Myofascial pain and dysfunction The trigger point manual』the third editionによれば、トリガーポイント療法として 21~25 gauge (= 0.5~0.8mm)が選択されています。(selection of needle gauge ,p758)。筋肉に厚みのある腰などの部位では0.8mmが推奨されます。

ちなみに日本人の髪の毛の太さは「0.05~0.15ミリ」の範囲であることが多く、平均的な髪の毛の太さは「0.08ミリ」とされています。

 

当院での様子

 

当院では02番から1番0.12~0.16mm)の使用がほとんどです。03番(0.10mm)をもっと使用したいのですが、03番は長さが1.5㎝までのものしか生産されていないので、1寸(3㎝)のものが生産・市販されることを願っています。1寸あれば、肩こり・首こりなどでかなり戦力になります。(実際に、鍼メーカー3社にお願いしたことがありますが、ほとんど相手にされませんでした。。。忙しいのに一鍼灸師の話に付き合ってられないのは当然ですが)

0.12mmの鍼が実質上、戦力になる一番細い鍼で、細い分、扱いは気を使いますが初めて打つ部位や、肩こり、首こりなどで大活躍しています。少しマニアックな話になりますが、0.12mmはかなり細いため筋膜を滑るような感触になるので、筋膜を掴む感じがしっかり得られるのはその一つ上の0.14mmからだと感じています。使ったことはありませんが、その間の0.13mmというものがもしあれば、どのような感じになるのか興味深いところです。

 

鍼の太さの一覧表

 

    日本式表記 欧米式表記  
  millimeters 番手 gauge size  
   
  0.10mm 03番  
  0.12mm 02番  
  0.14mm 01番  
  0.16mm 1番  
  0.18mm 2番  
  0.20mm 3番  
  0.23mm 4番  
  0.25mm 5番  
  0.30mm 8番 30  
  0.33mm 9番(0.32) 29  
  0.36mm 10番(0.34) 28  
  0.40mm   27
  0.45mm   26
  0.50mm   25
  0.55mm   24
  0.60mm   23
  0.70mm   22
  0.80mm   21
  0.90mm   20
  1.10mm   19
  1.20mm   18
  1.30mm   17
  1.60mm   16
  1.80mm   15
  2.10mm   14
  2.40mm   13
  2.70mm   12
  3.00mm   11
  3.40mm   10
         

 

鍼の太さと治療効果についての研究

 

鍼の太さと効果についていくつか研究例をご紹介させていただきます。これらの研究で選択されている鍼の範囲が日本でのものから外れているので直接的には参考にならないかもしれませんが、自分でこのサイズの鍼を使用することはないので逆に興味深いです。

 

Zhang.2015

44人の被験者を対象に、鍼の太さと深さと生理的変化の関連を調べた研究です。

  • 太い+深い条件(1) : 太さ0.4mm、1.5cm刺入
  • 細い+深い条件(2) : 太さ0.12mm、1.5cm刺入
  • 細い+浅い条件(3) : 太さ0.12mm、2mm刺入
  • 太い+浅い条件(4) : 太さ0.4mm、2mm刺入

 

内容: 施術5分前、置鍼後5分、置鍼後10分 微小循環(毛細血管などの微小血管系の血液循環)の変化を計測

結果: すべての条件で微小循環の増加が確認された。

太さの違いにより異なる循環変化が引き起こされた。(4)が、(1),(2),(3)より有意に大きな変化を起こした。

深さの違いによる有意な変化は確認されなかった、と報告しています。

 

『Do acupuncture needle size and needling depth matter? A laser Doppler imaging study』; Xiuyu Zhang,. et al,. Integr Med Res ( 2 0 1 5 ) 42–144, P1.068.

 

Wang.2016


慢性腰痛の患者48人を被験者にして太さについて調べた研究です。

0.25mm (group A)

0.5mm (group B)

0.9 mm (group C)

の3条件に付いて、治療開始時と3か月後までの変化を調べました。(1回の治療で20本の鍼を使用し、圧痛点に対して最大の反応点に鍼が届く深さまで刺入)

結果1 : VAS(痛みのアンケート) どのグループも改善したが、CがA,Bより大きく改善した

結果2 : Short Form(36) Health Survey scores(症状の状態について36項目の質問) はどのグループも改善し、3グループ間の違いはなかった。

詳細 : 施術後7日、1カ月、3か月における慢性腰痛への治療効果は3条件のいずれにおいても確認された。3か月後の時点で、0.9mm条件が0.5mmよりも大きな改善効果があった。

結論  :  鍼の太さは治療効果に影響がある。

私は0.9mm、0.5mmなどの鍼は実物を見たことがないのですが、論文内の写真を見ると迫力満点です。

(出典:Wnag,. et al., Figure2)

この論文の中で、「0.9mmは、0.25mmや0.5mmの鍼よりも強い鍼の痛みを引き起こす。」ことと、「0.9mmではよく出血する」という事がサラッと書かれていました。中国の方も痛いのか…と変ですが素朴な感想というか安心しました。

(出典:Wnag,. et al., Figure3)

マシュマロを焼く時に刺す棒か、戦で背中に浴びた矢を抜いているかのように見えてしまいますが、日本に最初に伝わってきた時は、今のように細くする技術もなかったわけですからこのような光景だったのかも知れません。

 

『Impact of Needle Diameter on Long-Term Dry Needling Treatment of Chronic Lumbar Myofascial Pain Syndrome』; Wang G,. et al,. Am J Phys Med Rehabil 2016;95:483Y494.

 

Yoon.2009.


ドライニードリングではなく、薬液注射についての研究ですが、注射の際に使用した注射鍼の太さによる効果の違いを報告しています。

注射針の太さ、0.8mm、0.6mm、0.5mmの3条件で同じ薬液(0.5%リドカイン)をトリガーポイントに注入したというものです。

Short Form(36) Health Survey (SF-36) score evaluation(症状についての36項目のアンケート)の結果、0.8mmのグループが、0.6mmおよび0.5mmのグループよりも改善が見られた、と報告しています。

 

Yoon SH, Rah UW, Sheen SS, et al: Comparison of 3 needle sizes for trigger point injection in myofascial pain syndrome of upper- andmiddle-trapeziusmuscle: a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil., 2009;90:1332Y9.

 

まとめと当院の考え

 

これらの研究からすると、概ね、他が同じ条件であれば太い鍼ほど効果が大きいという事になります。

理論上、太い鍼であればそれは確実に「侵害刺激」に該当しますから、感作されてようがいまいが、ポリモーダル受容器が反応することになるので、神経性炎症が生じ、一連の治癒の過程がスタートすることになります。乱暴な言い方をすれば、技術に関わらず確実に必ず効果が出せることになります。

しかし効果を出すルートは他にもあります。

細い鍼を使用して感作されたポリモーダル受容器を反応させれば同様の反応が起こせるので、当院ではその線で治療を行っております。

やり方さえ正しければ髪の毛ほどの細い鍼が驚くほどの変化を起こします。そこにこそ鍼灸治療の醍醐味というか奥深さがあると感じて日々治療をさせていただいております。