一時的な鎮痛ではなくコリを根本的に解消
明言されていることは少ないかもしれませんが、鍼灸マッサージの治療は、鎮痛効果を目的とするものと、コリそのものを取る(それにより痛みをなくす)ことを目的とするものに大きく分かれます。
ツボや経絡を用いた治療は前者(上図:B)、トリガーポイント療法やドライ ニードリングは後者(上図:A)に該当します。
鎮痛効果を目的とする治療は、「症状の軽度の方」や「体質的にとても効きやすい方」にはそれで十分なのですが、往々にして一時的効果に過ぎないことがあること、そして根本的な難点として鎮痛効果の出にくい体質(およそ半数)の人には一時的な効果さえ起らないという問題点があります。
痛みは抑えられたとしてもコリがあるのを放っておくのが感覚的に嫌だという私の個人的な価値観と、日本において前者を目的とした治療院が主流なので当院ではそこで解決を見ない患者様の受け皿になることをコンセプトとして開設していることもあり、当院では後者に絞って施術を行っています。
コリを取るにあたっての当院の治療のターゲットは、「過敏になったポリモーダル受容器」です。それを不活性化するということで痛みを根本的になくしていきます。
肩こり、首こり、腰痛などに限らず自律神経系の機能低下に対する治療も含めて「ポリモーダル受容器」を刺激することで効果を出していきます。(詳しくは ポリモーダル受容器 をご参照ください。)
その点においては、鍼とマッサージに「質的」な違いはありません。
基本的には「血行不良」が原因でコリができそれが痛みを生じる訳ですが、そのような場所(コリ)のポリモーダル受容器は過敏になっています。
筋肉はまんべんなく凝るわけではないのでいかに”芯”になる部分をうまく見つけ正確に刺激するかが治療の肝です。
基本的には鍼、マッサージのどちらを用いても良いので、凝った筋肉内、筋膜上(あるいは場合によっては腱や関節包、靭帯など)にある「過敏になったポリモーダル受容器」を治療して不活性化させていくことがそのまま血流を改善し、「コリ」の解消になりますし、コリに起因する痛み(慢性痛)を軽減・除去することになります。
また、ポリモーダル受容器が刺激されると自律神経系、および免疫系に強力にスイッチが入りますので、免疫系、自律神経系のトラブル症状(自律神経失調症、不眠、食欲不振、だるさ、冷えなど)も、「コリ」と同様、過敏になったポリモーダル受容器を的確に刺激することで症状を改善することができます。
ですので、当院の方針としては、ことさらに「ツボ(経穴)」や「経絡」論にとらわれて、理解しにくい説明や治療法になるのではなく(あえて単純化して表現するならば、)ツボ=過敏になったポリモーダル受容器として、反応の強い悪い部位からどんどん不活性化させていけば良いと考えて治療を行っています。(*1,2)
過敏になったポリモーダル受容器が刺激を受け、神経性炎症の過程を経て不活性化されると、治療前と比べて圧痛、自発痛・運動痛は明らかに軽減しますし、何よりもご自身で触られるとコリ・筋硬結の硬さ・大きさが以前とまるで異なることがお分かりになると思います(氷が解けて小さくなっていく感じです)。特に首や肩はすぐ手が届く場所なので変化に驚かれる患者様が多くいらっしゃいます。
また、コリの除去を目的としてある程度継続して受けて下さっている方が、同時に抱えていた「冷え性がいつの間にかなくなっていた」とご報告して下さることも多くあります。
(*1,2)は以下の2つの意味で単純化して表現しています。
(*1)「ツボ=過敏になったポリモーダル受容器」について:
長い歴史の中でいろんな流派なり考え方があり、そもそもツボの一義的に確定した定義も場所も特徴もない概念なので、論理的に何物もツボと「 = 」で結ぶことはできません。
しかし、従来からツボと言われてきたものが有する特徴のほとんどを(敏感になった)ポリモーダル受容器は備えています。
(*2)「反応の強い悪い部位からどんどん不活性化させていけば良い」について:
TP(トリガーポイント)療法の考え方のように、痛い場所と悪い部位が必ずしも一致しない(関連痛)ことはよく知られていることですし、臨床の現場でも頻繁に遭遇することですので、実際はもう少し慎重なとらえ方が必要です。
それに、近年注目が集まっている筋膜などの結合組織のつながり、あるいは細胞や離れた臓器の作る複雑なネットワークの議論からも分かるように、身体は全体につながっています。ですのでそこが痛いからと言ってそこだけ治療すればよい、という考え方は基本的に正しくありません。
しかし、「肩が凝って痛い」と訴えている患者様の肩の筋肉が実際に硬くなっていて、その部位のコリを正確に捉えれば確実に柔らかくできて痛みが楽なることが分かっているなら、まずそこを治療するべきで、わざわざ「証」を立てて違う場所に鍼を打つ必要はないだろう、という考え方です。その後、必要性と条件(時間・予算)に応じて関連部位を治療(他があまりにも悪いと症状が戻ってしまいやすいので)して良くなった状態を確定させていけば良いと考えています。
当院のような考え方「対症療法」は、東洋医学では「標治」といって低く見られている考え方です。もともと東洋医学はコリやそれに起因する痛み(筋筋膜性疼痛:MPS)を治療することが目的ではなく、五臓六腑の乱れを治すこと目的です。日本においては鍼治療といえば圧倒的に東洋医学が主流なので結果として対症療法というのは劣る治療法という評価になります。
しかし、マッサージであれ鍼であれコリの芯を正確にとらえた時の効果はそのような批判を完全にひっくり返すだけのものがあります。
これまでのポリモーダル受容器に関する様々な生理学的研究の成果を素直に取り入れるならば、ツボが刺激された時に生じるとされる効果はポリモーダル受容器が適切に刺激された時の効果として十分説明できるので、当院ではMPS(筋筋膜性疼痛)治療においては東洋医学的なフィルターは全く不要と考えています。
* 大多数の患者様は一般的な施術法で効果・満足が得られているはずですので問題はありません。ここでの議論は治療法の優劣ではなく、そこから漏れてしまうコリに特化した治療を望む患者様のために選択肢が広げられることを目的としています。当院においで下さる重症度の高い患者様から聞かれるのは「まずは一番つらいここを何とかして欲しい」という声です。