サプリメントについて – 当院の身体観と絡めて

サプリメントについて  -  当院の身体観

 

サプリメント摂取について話題になることがあります。

 

サプリメント一般について話題になることもありますが、〇〇というサプリメント(の成分)についてどう思うか?(効くと思うか?)と患者様から問われることもしばしばあります。

もちろん一介の鍼灸マッサージ師が客観的に正しい答えを持っているはずはなく、当然患者様も本気でお聞きになってなられている訳ではなく雑談としてです。

しかし「身体」について、もっと大袈裟にいうと「生きていること」についての見方を問う良い題材だと思います。どのような身体観に立つかという事でもあるので、鍼灸マッサージ治療と(直結はしていなくとも)無関係ではありません。

 

美容関連で有名な「コラーゲン」や関節痛に「コンドロイチン」・「グルコサミン」など…気にして過ごしていなくても自然に耳に入ってきたり目に入ってくるほど身近な存在です。

 

まず、どのようなサプリメントであれ、経口摂取することに対する販売が許されている訳ですから通常の用法で危険性・有害性はありません。

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次に、もし本当に(二重盲検法などで)間違いない効果が認められる物なら標準的な治療として病院で医師が使うはずです。

 

ですのでこの両者の間に答えがあると考えるのが常識人の判断です。

 

肌の成分を飲めば肌に効く、関節(軟骨)成分を飲めば関節に効く…人間の身体がプラモデルや車のような仕組みであれば正しい考え方です。

典型例として、NHKきょうの健康Q&A(『患者さんの疑問に答える – 膝・腰・首・肩の痛み』2008, p100)に以下のようなQ&Aがあります。

 

Q:肩にカルシウムが沈着しているといわれました。骨粗鬆症の予防にサプリメントでカルシウムを摂っていますが、これが原因でしょうか?

A:カルシウムの過剰摂取が原因で、肩にカルシウムが沈着することはありません。…カルシウムの摂取と肩のカルシウム沈着は無関係です。…サプリメントなどでたくさんカルシムを取ったからと言って、それが腱板内に沈着するということはあり得ません。…

 

もう一例挙げてみます。福岡伸一氏の『世界は分けてもわからない』( p,16.)では、

 

脳細胞がコミュニケーションを取る際、やり取りされる物質の一つにグルタミン酸がありますが、それでは「グルタミン酸をたくさん補給すれば頭の働きが良くなるのか?」という点について以下のように説明されています。

—  食べて吸収されたグルタミン酸は身体を巡る。しかし、脳の中には直接入っていかない。脳の中の血管の壁には特殊なバリアーが張ってあり、血液中の物質が簡単に脳内に入り込まないようになっている。脳内で必要なグルタミン酸は、(必要に応じて)脳内で合成される。… ではもし仮に、脳内に直接、グルタミン酸を注入して濃度と高めたら頭がよくなるだろうか?これも否である。むしろ重大な障害が発生し、…信号の強度は振り切れ…脆弱な神経細胞はたちまち死滅し始める。 —

 

世界でもっとも著名な脳科学者の一人であるアントニオ・ダマシオも、その著書『生存する脳(デカルトの誤り)』(p.299. 講談社)で

「グルタミン酸は脳にあまねく存在し、神経細胞の興奮に使われている。しかし、たとえば脳卒中などで神経細胞が損傷すると、神経細胞が周囲の空間に過剰なグルタミン酸を放出し、そのため過剰興奮になり、最終的に近傍の健全な神経細胞をだめにする」

と述べています。

 

現代であれば、このような答えを得ることが出来ますが、

医学史を紐解いてみると、頭が良くなるようにサルの脳みそを食べた、精力剤として睾丸をすり潰してエキスにして人間の睾丸に注射したて、など現代から見れば無茶苦茶ですが当時は真面目に行われていたことが記されています。

 

しかし、このようなラ・メトリ(やデカルトなど)の人間機械論的発想で実際にうまくいっているものもあります。

人工骨や人工関節の置換術、臓器移植、歯のインプラント、人工内耳などです。

 

ただ、これらは全体としてみれば例外的で、ほとんどの身体部位の振る舞いはもっと複雑で関係的なものなので、身体は単純な部分の集合・足し算で出来上がっているわけではありません。

 

普段何気なく行っている「食べる」こと、つまり「消化」と「吸収」の持つ本当の意味について考えてみたいと思います。

 

「消化」と「吸収」の意味

 

1.分解(消化)

人は牛肉や魚、果物、野菜、穀物…様々なものを食べて生きています。

 

なぜトマトを食べても体が赤くならないのか?

牛を食べてなぜ牛にならないか? 

 

という簡単な問いに分子生物学の視点(福岡伸一氏の一連の図書『動的平衡』『生物と無生物の間』『世界は分けても分からない』等)を参考に身体観・生命観を考えてみたいと思います。

 

そうすることで個々のサプリメントを検討するまでもなく自然に答えに行き着くと思われます。

 

我々が、何かを食べるという場合、もともとは他の生き物の体を自分の体の中に取り入れるという事です。

つまり、噛んで飲み込んだ時点では、元の生命体を構成してた情報が細胞内のDNAにそのままの形で残っている訳です。胃の中には植物であれ動物であれ元の生き物を構成していたたくさんの情報で溢れかえっていることになります。

 

そのまま食べた人の身体の材料としてそれを用いてしまったらどのようになるでしょうか。。。

自分の身体の情報と食材を作っていた情報が衝突しトラブルになる、具体的には、食物アレルギーなどが起こります。

 

したがって、消化酵素によって元の生き物の情報が意味をなさなくなるレベルまで解体し続けていきます。

具体的にはタンパク質が個々のアミノ酸になるまで分解し続けます。

文章をひらがな一文字一文字分離していくようなイメージです。 (「あ」「い」「う」… のレベルにまで分解してしまえば元の文章がどんな内容であっても関係なくなります。これらの文字を組み合わせて自分に合った単語、文章を作っていくことになります。)

この場合の一文字がアミノ酸ひとつに当たります。

 

その上で初めて体内に吸収し、血流にのって身体の各部位で必要な形に組み立てられ自分の身体になります。

 

つまりここまでで言えるのは何を摂取しようとも、元の情報が完全に失われるまで細かく分解された上で吸収され、自分に合った身体の要素に作り替えられるという事です。

 

2.吸収

それでは次に吸収された成分はどのように身体に利用されていくのでしょうか?

この点を明らかにしたのがユダヤ人科学者のシェーンハイマーです。

 

シェーンハイマーの実験

 

窒素の同位体(重窒素)を使用して標識化したアミノ酸を3日間マウスに食べさせて、吸収されたアミノ酸がどのように体を巡っていくのか分子の行方を追跡しました。

 

当初の予想ではアミノ酸がマウスの体内でエネルギーとして燃やされ、燃えカスは糞尿となって排泄されるだろう、というものでした。

普通に考えたら誰でもこのように予想すると思います。

 

ところが、目印を付けたアミノ酸はあっという間にマウスの全身に散らばって、半分以上(56.5%)が脳や筋肉、消化管、肝臓、血液など体中の組織を構成するタンパク質として組み込まれていました。糞として排泄されたものは2.2%、尿として排泄されたものは27.4%ですから糞尿として体外に排出されたものは3割弱ほどです。

マウスの見た目も体重も実験前と変化はしていません。

 

この実験により、我々の身体は絶え間なく分解され構築され続けているということが示されました。

つまり、見た目は常に一緒に見えていても中身はものすごい勢いで常に入れ替わり続けている、という事です。

 

これは何もタンパク質(アミノ酸)についてだけではありません。シェーンハイマーは脂肪についても水素の同位体(重水素)を使用してその動きを調べています。

実験前の予想は、多くの人が常識的に思い浮かぶように「(エネルギーが必要な場合ならなおさらですが)摂取された脂肪のほとんどは燃焼されて、わずかな余剰分だけが身体に蓄積されるだろう」というものでしたが、結果は、動物の体重が減少している時でさえ、消化・吸収された脂肪の大部分は体内に蓄積されていました。

つまり、脂肪は一般的にイメージされているような単なるエネルギーの貯蔵庫として固定的に存在するものではなく、見た目に全く変化がなくても脂肪細胞内部の分子は激しく入れ替わっているという事です。

 

この話を初めて知ったとき、

 

鴨長明の方丈記の

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」の一節が思い浮かびました。

 

西洋でもヘラクレイトスが

「あなたは、同じ川に2度入ることはできない」

と言っています。

 

川に利根川、多摩川などと名前を付けて呼んで長い間同じ存在であり続けているように扱っていますが中身の水は絶えず新しい水です。

 

一説には毎日体重の60分の1が入れ替わっていると言われています。

60kgの人でしたら1kgが新しい成分に置き換わっていることになります。とても単純に考えれば60日経てば中身が全部違う物質で置き換わってしまったことになります。つまり2か月振りに合う友人は以前にあった時とは身体が別の物質でできているという事になります。

*実際には同じ組織(筋肉)内でも代謝回転の速い成分もあれば、代謝回転の遅い成分もあるので上記のようにはいきませんが、骨などの特殊な部位を除けばおよそ半年もあれば、ほとんどの部位は入れ替わっていると考えられています。

 

よく、脳細胞や筋肉細胞は個体形成後は新たに分裂しない(あるいはほとんどしない)と言われますが、そのような組織でさえ、それぞれの細胞の中身はどんどん壊されて摂取した新しい分子に置き換えられています。

もちろん、骨も歯も同様です。もっとも骨は骨粗鬆症が有名になって破骨細胞と骨芽細胞のバランスが崩れ…ということが周知されてきているので現代人にとって意外では無い話かもしれません。(骨は入れ替わりに3,4年かかると言われています)

鍼灸マッサージ治療もこの文脈で理解されるべきものです。つまり、筋肉の凝りは血流が途絶え、スムーズな分子の入れ替えが妨げられている状態です。詳しくは血行不良がなぜいけないかをご参照ください。

 

車でイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。

 

小学校のころ、家庭科で「食べ物の栄養について」の項目で「エネルギーになる物」・「からだを作る物」という感じで分類されていたのを覚えていますが、

 

前者(エネルギー利用)については、基本的には車も人間も同じ仕組みです。

車で言うガソリンが人間で言う炭水化物(米、パンなど)に当たります。

ガソリンだけあっても意味がありません。エンジン(シリンダー)内にガソリンと空気(酸素)を取り込んで燃やす(=酸化)ことでエネルギーを得ています。

人間の場合、炭水化物を肺で取り込んだ酸素で燃やすことでエネルギーを得ています。

車のエンジンで行われているような急激な燃焼は爆発と言われますが、人間の体内で行われているのはゆっくりとした穏やかな燃焼です。どちらも燃料を酸化させて運動エネルギーを得ているという仕組みは一緒です。酸化という化学反応ですから熱も発生するので車のエンジンは温まりますし人の体温も上昇・維持されます。(*)

(*)ただ生物の場合はその場で燃やして使い切ってしまうと不足時に活動が出来なくなってしまうので様々な場面で必要に応じて使えるようにエネルギーをATP(アデノシン三リン酸)という形で細胞内に備蓄しています。ATPは生物の細胞や組織にとって、普段は銀行に貯蓄しており必要であれば世界のどこでも使える基軸通貨の米ドルのような存在です。この点を車で例えるなら、ブレーキ時に摩擦・熱エネルギーとして捨てられていた運動エネルギーを電気エネルギーとして回収して次回の加速時に使うハイブリッド車に当たります。

 

しかし、後者(「体を作るもの」)についての扱いで根本的に異なります。それが今回話題になっている動的平衡という事です。

 

人間の場合、上記の食べ物を酸化させて運動エネルギーを得て活動しながら、同時に絶えず自分の身体そのものを入れ替えているという事を行っているわけです。この、身体の構成要素がタンパク質、要するにアミノ酸です。

 

車で言えば、走りながら同時に、車体のパーツ交換、修理をしているようなものです。ボディやエンジンの構成要素である金属やガラス、ゴム、オイル、接着剤などを手あたり次第入れ替えながら走っているという事です。

 

車検に出したり、故障すれば整備工場に送って悪い箇所のパーツ交換をするということはありますが、生物の場合、悪い箇所を交換するという方式ではありません。何の問題もない部分も含めてどんどん入れ替えていきます。

 

 

結論

これらの話を前提とした場合、例えば、摂取した美肌成分「コラーゲン」はどのようになるでしょうか。

上記のとおり、アミノ酸にまで粉々に分解され、くまなく全身に散らばっていきます。エネルギーとして燃やされるものもあれば血管、爪、内臓、筋肉、骨、白血球、そして皮膚…。

もちろん身体に悪いわけはなくプラス方向の効果(特に食事で不足しているような場合)であることは間違いないでしょうが、少なくとも「肌の成分を摂取したから肌に張りが出る」というピンポイント効果は期待するべきではないということは言えそうです。